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室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

卞孝文と畠山持国のやりとり

足利義教のお悔やみと足利義勝のお祝いに来た卞孝文とそれを迎えた管領畠山持国のやりとりをいかに再現します。『朝鮮世宗実録』二十五年十月甲午(1443年10月4日)条です。これは卞が帰国後に国王の世宗に報告している内容です。したがってあくまで卞の記憶と主観によるものです。(  )内は原文です。

 

飯尾貞連「国王(室町殿の国際的な呼称)は年少です。管領が実権を掌握しております。王は南に向かい座り、使者は東に座るものです」

(国王年少、管領実権、王坐当南向、使臣在東)

卞孝文「いやいや、客は東で主人が西というのが礼儀でしょう」

(客東主西礼也)

貞連「あ、それじゃあ管領を東に、使者を西でどうでしょうか」

(然則管領在東、使臣在西可也)

卞「それあかんて」

(臣(卞孝文)示以不可之意)

貞連「そないなってますねん。変えられませんわ」

(地勢如此、不可易也)

卞入室する。持国はどっしりと東に座っている。

(臣等乃入、管領坐東不起)

卞「ちょっとー、貞連さん、ちょっと来て来れへんか」

(臣呼大和守(飯尾貞連)云)

貞連、あたふたとくる。

卞「管領は何で立たへんの」

管領何不起)

貞連、持国に耳打ちする(推定)。持国、立ち上がる。

(乃立)

卞と持国がお互いに敬礼して座る。 

(相揖就坐)

卞「外交使節のやりとりは歴史を通じた礼儀ですわな。回礼使を使す気はありまんの?」

(聘問古今通義。今遣回礼使否)

貞連「先例にないんで無理っす」

(旧無其例、不可遣)

卞、かつて朝鮮にやってきた使節の例を述べる。

(詳陳旧例)

貞連「話し合った結果、大名たちはみんな旧例は回礼使ではない、ただ請経使がいただけだ」

卞「だーかーらー、請経使を使わすんとちゃうんかいな💢!!」

(今将遣請経使矣、臣強言之)

持国と貞連(多分貞連が中心)「よくよく文献を調べたけど、ほんま、旧例がないんやて」「国王は子どもやし、わしらで政治やっとんやし、例のないことはでけへんねんて。そこ頼むわ」

(詳考文籍、実無旧例。国王年少、不能裁決、我等独専国事。不可以無例之事)

 まあ、国王が幼少であることを言い訳にしてできない、と言い続ける日本側の対応を見ていると、このやりとりをそばで見ていたであろう申叔舟ならずとも、幼少の君主を擁立するリスクを考えたくなる気持ちもわかります。しっかりしたバックアップがあればいいんですが。

 

卞らはその後も災難に見舞われます。

 

まず国王が急死します。お祝いを述べた相手の国王の葬儀に参加するとはなんと皮肉なことでしょう。

 

彼らは帰途に着きます。伊予国についた時に・・・

「ヒャッハー!奴らゼニ持ってやがるぜー!!」

(群衆号噪、持杖突入、将奪礼物而去)

 

「これはお前らの国王陛下、管領様の贈り物であるぞ!頭が高い!!控えおろう!!!」

(臣言、此皆汝国王・管領礼物、汝等何至無礼如此)

 

「チョーウケるんだけどー!!こいつら何言ってんの?!国王がどうかしたって?ヒャッハー!!いいもん持ってんじゃん!!!」

(再三開諭亦不聴。号噪愈甚)

国王の威厳も効かないようです。申はますます国王の幼少であるがゆえの問題を強く意識したことでしょう。

 

結局金を払う羽目になりました。

(不得已給銭乃止)

 

ちなみに「請経使」という名目で派遣されることになってます。彼らは下関で卞らに追いつき、新たな国王に弟が擁立されたことを告げます。三寅、後の足利義政です。