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室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

後花園天皇と貞成親王の絵のやりとり

後花園天皇の永享五年の動静を見ていて、非常に気になるのは、短期間のうちに絵を頻繁にやりとりしていることです。

六月十二日、後花園天皇から貞成親王に「弘法大師絵」十巻と「智証大師絵」五巻が送贈られ、二日後には返却されています。するとまた「太神宮法楽寺絵」五巻と「泊瀬寺縁起絵」三巻が贈られ、十六日に返却されています。

 

十六日、返却と引き換えに「八坂法観寺絵」三扇、「聖廟御絵」六巻、「義湘大師絵」四扇、「青丘大師絵」二巻が贈られ、十八日には返却されています。

 

二十日には「新善光寺絵」三巻を贈られ、二十二日に返却しています。

 

この頻繁なやりとりをみて誰もが突っ込みたくなるはずです。「これ、贈っているんと違って貸し借りしてるんちゃうか?」って。原文を見ますと「なんとかかんとか絵何巻被下(くださる)」とあるので、貸し借りとは書いてありません。しかし実態は貸し借りでしょう。『後花園天皇実録』では「賜フ」「返上」とあります。

 

後花園天皇貞成親王という場合は、「賜フ」「返上」と書かれ、逆の貞成親王後花園天皇という場合には「召シテ叡覧」という形になっているようです。どちらにしても所有権の移転はなく、貸借関係にとどまるものと思っています。

 

この頻繁な絵のやりとりですが、この後も続きますので、この絵のやりとりを通じて後小松の属する後光厳流皇統を崇光流皇統に切り替えさせる陰謀が両者の間で進行して居た、というのはとりあえず排除してもいいかな、と思っています。この皇統の切り替えについては、貞成親王足利義教が積極的であったものの、それが実現したかどうかについては議論が分かれるところで、なぜ完全に行われ得なかったのか、ということについては現在いろいろ考えているところです。来年の3月に出る予定の論文で論じます。

 

ともあれ、貞成親王後花園天皇の絵のやりとりについては別に考察する価値はありそうです。