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室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

後醍醐天皇綸旨(『朽木家古文書』(国立公文書館所蔵)所収)

月曜日は古文書の解説です。

第一回は後醍醐天皇綸旨です。確か「古文書入門」というカテゴリーで後醍醐天皇綸旨(『東寺百合文書』)をやっていた記憶はあるのですが、それは忘却の彼方、ということで気にせず新しいシリーズとして始めます。

 

一回で1つの文書を読んでいきますので、それほど丁寧な解説はできません。

どれくらい簡略化するか、といえば、2月25日に発売となる渡邊大門編『戦国古文書入門』(東京堂出版)の10分の1以下です。

 

www.tokyodoshuppan.com

私も書いていますのでよろしくお願いいたします。

 


戦国古文書入門

 

では現物を見ます。引用、転載、複製OKといえば国立公文書館京都府立京都学・歴彩館です。他にも意外とありますが、私はとりあえずそこを利用しています。ただし著作権は保持していますので著作権遵守は必須です。

 

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ここで『戦国古文書入門』ならば字が一つ一つここに取り出せて、それに一流の専門家(私を除く)が懇切丁寧に解説していきます(私もそこだけは見劣りしないように頑張っています)。ここではそのような高度な技術は使えませんので、そこは飛ばしていきます。

 

一行目は「近江国朽木庄地頭職」と読みます。

「近」はしんにょうに注意してください。「江」はさんずいが典型的な形のくずしです。「国」は多く「國」と旧字体で描かれますが、ここでは異体字で現行の書体である「国」を使っています。「朽木庄」はそれほど難しくないでしょう。

「地頭職」ですが、「地」はともかく「頭」が全く形が違うので戸惑うかもしれませんが、よく見るくずしです。「職」は偏が「耳偏」ではなく「身」となっていることの注意してください。

 

と、こんな具合に続いていくのですが、ここで『戦国古文書入門』なみの解説をやるとものすごく時間も手間もかかるのでここではもう少し簡略化します。

 

釈文です。

 近江国朽木庄地頭職

佐々木出羽四郎兵衛尉

時経如元可令知行者

天氣如此、悉之、以状、

元弘三年八月十二日  式部少輔(花押)

 

読み下しです。

近江国朽木庄地頭職、佐々木出羽四郎兵衛尉時経、元の如く知行せしむべきてえり。

天氣此の如し、これを悉くせよ、以って状す、

元弘三年八月十二日  式部少輔(花押)

 

朽木氏は佐々木氏の分流で、佐々木信綱ー高島高信ー頼綱ー朽木義綱ー時経と続いてきます。

 

元弘三年は西暦1333年、つまり鎌倉幕府が滅亡した年です。鎌倉幕府の滅亡によって地頭職などは改めて後醍醐天皇の綸旨によって安堵される必要が生じ、それが大混乱を引き起こしたのは「二条河原落書」にも「文書入れたる細つづら」と描かれている通りです。

 

少し注意すべき読み方としては文中の「者」という字です。「者」は「もの」と読んだり、「は」と読んだりする用例が一般的ですが、古代・中世では「てえり」「てえれば」と読む用例も多いです。「ということである」「ということであるので」という意味です。

 

個人的にものすごく疑問に思っていることがあります。「てえり」というのが「といえり」の訛りであることは言われていますが、綸旨にも関わらず「といえり」が「てえり」と、ものすごくべらんめえ調なのはどうしたことでしょう。例えば「ぞ」が『万葉集』の「東歌」では「ぜ」に訛るように「エ」段に訛るのは関東風なのではないか、と思っていたのですが、なぜか古文書では「てえり」とべらんめえ調です。なぜべらんめえ調に「てえり」となったのか、今まで疑問に思ってきました。

 

「天気」というのは「天皇の意思」です。綸旨は天皇の意を奉じた奉者が執筆する奉書形式の文書ですから、この文書では「天気」=後醍醐天皇の意を奉じた岡崎範国が出しています。

 

岡崎範国は藤原南家の堂上貴族で従三位非参議でした。孫に清原家から養子を迎え、それ以降は少納言止まりの下級貴族になります。ひ孫の範景(のりかげ)は足利義教(よしのり)と「のり」の読みが重なるのを憚って「資景」(すけかげ)と改名することを余儀なくされました。

 

「これを悉くせよ」という読みは日本史史料研究会監修、苅米一志著『日本史を学ぶための古文書・古記録訓読法』(吉川弘文館、2015年)に従っています。

 


日本史を学ぶための古文書・古記録訓読法

 

佐藤進一『古文書学入門』(法政大学出版会、1971年)では「これをつくせ」と読んでいます。この辺はどちらを採用するかは自由だと思いますし、私は口頭で説明するときは慣れている「これをつくせ」を採用していますが、文章で書くときはIMの変換効率の問題で「これをことごとくせよ」の方がスムーズに変換されるので「これを悉くせよ」としています。

 


古文書学入門

 

それではこの辺で。