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室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

「後西天皇」という奇妙な加後号について

前回のオンライン日本史講座で本筋とは関係ないところで話題になったのが天皇追号です。

 

ticket.asanojinnya.com

本題は「日明貿易倭寇」だったのですが、天皇追号に話がずれて、そこで「後西天皇」という妙な名前の天皇について話題になりました。

 

ちなみに我々が知っている「〇〇天皇」という天皇の名前は全て崩御後に付けられるものです。存命中は「天皇」と言えば「上御一人」という言葉が示すように在位中の一人しかいません。しかし歴代の天皇に言及する場合、分けないとややこしいので天皇に「〇〇天皇」と名前を付けます。この辺は以下のエントリをご覧ください。

 

sengokukomonjo.hatenablog.com

 

結論から言いますと、正しくは「後西院」で、「西院」が淳和天皇の別号であるために、加後号で「後西院」となったわけです。

 

「西院」は淳和院の別名で、現在の西大路四条です。ジョーシン京都1ばん館が淳和院あとです。

 

天皇の名前については遠山美都男『名前でよむ天皇の歴史』が詳しいです。一読をお勧めします。

 


名前でよむ天皇の歴史 (朝日新書)

 

遠山氏によれば「淳和」は追号であるが、音読するので漢風諡号に準ずると見なされて西院の方に後を加えた、とみていらっしゃいます。この辺の諡号追号の問題は一筋縄では行きません。今それについての文章を執筆中です。ただこの「後西院」に関する記述については従いたいと思います。

 

淳和は「西院帝」なので例えば「柏原帝」の加後号が「後柏原院」というルールに従えば「後西院院」となります。ただこれがヘンテコなのは誰でも気づくので、当然当時の朝廷でも「院」の重複を避けて「後西院」となりました。

 

この辺はウィキペディアをご覧ください。

ja.wikipedia.org明治時代に過去の「〇〇院」も全て天皇号を付すことになりました。例えば我らが後花園天皇の場合、「後花園院」から「後花園院天皇」に変わったのです。その時「後西院天皇」になりました。大正14年には「院」を外そうと決まり、我々には馴染みの深い「後花園天皇」となりましたが、後西院は「後西天皇」という意味不明な追号になってしまいました。

 

加後号の場合、前の天皇の事績を気にする場合もあれば、気にしない場合もあったようです。

 

今日我々は陽成天皇と言えば困ったちゃんな天皇という意識を持っています。もっとも陽成天皇に関わる困ったちゃんイメージは権力闘争の中で作り上げられたものとする倉本一宏氏の見解があります。

 


平安朝皇位継承の闇 (角川選書) [ 倉本一宏 ]

 

 では後陽成天皇はなぜ陽成の加後号なのでしょうか。そもそも「陽成」ってなんでしょうか。

 

この辺は遠山氏も「不明」としていらっしゃいます。この名前は後土御門院の時にも候補として上がっています。

 

この時の議論については近衛政家の『後法興院記』に記されていますが、後土御門院の場合、元になる土御門院が土佐国、後に阿波国遷座していることを以ってよろしくない先例という反対意見がありました。で、後陽成院については陽成天皇の行状は全く問題になっていません。しかし最終的に後土御門院に決まります。

 

「後土御門院」は後花園の時にも候補に上がります。後文徳院が却下された後に改めて出された候補の中に入っています。この時は遷座の先例ではなく、内裏が土御門にあったことが問題になっています。

 

陽成というのはどうやら「二条院」の別名のようです。だから陽成院と二条院と後二条院と後陽成院というのは全て二条がらみの名前であるようです。

 

陽成の父親が清和天皇でその別号を水尾帝ということから「後水尾院」の名前がついています。他には「深草帝」(仁明天皇)になぞらえた「後深草天皇」もいます。

 

光孝天皇こと「小松帝」にちなんだのが「後小松院」ですが、この帝も困ったお人で、なんと「小松院」を遺詔で定めています。しかし「小松」は光孝天皇のことなので、「小松院」はあかんやろ、ということになって、「後小松院」と加後号が使われています。しかし後小松本人は「俺は小松院だ」と思っていたはずです。

 

後小松が「小松」にこだわったのは、「小松帝」こと光孝天皇が現在の天皇につながる「正統」(しょうとう)の天皇だったからではないでしょうか。

 

「正統」の天皇については以下のエントリにまとめました。この企画が知り切れトンボになっている、という重大な瑕疵を今思い出しましたが、また忘れることにします。

sengokukomonjo.hatenablog.com