記載されている会社名・製品名・システム名などは、各社の商標、または登録商標です。 Copyright © 2010-2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

オンライン日本史講座二月第三回「朝鮮使節の見た室町日本」

「オンライン日本史講座」2月第3回、無事終了しました。

www.youtube.com

 

『老松堂日本行録』と『海東諸国紀』における日本認識についてです。

 

応永の外寇の講和交渉のために来日した朝鮮国回礼使の宋希璟の記した紀行文が『老松堂日本行録』です。

 

そこには朝鮮使節から見た日本の姿が描かれており、非常に貴重な記録となっています。

 

例えば「国王は最も少年を好む」とあり、足利義持が男色を好んだことが記されています。こうした記述ははっきりとは書いてありません。なぜかというとあまりにも当たり前のことだったからです。逆に当時の偉いさんでバイセクシャルでない人を探す方が難しいでしょう。

 

宋希璟はこうも書き残しています。「日本の俗、女は男に倍す」。清水克行氏はこれについて考察していますが、少しだけ紹介すると、「その理由はおよそ私たちの想像を超えるショッキングなものだった。つまり、この記録(鄭舜功『日本一鑑』)によれば、そもそも日本では男が少なく生まれるというわけではない、基本的には男女同数で生まれるのだが、もし男子が多く生まれすぎた場合、母親はこれを嫌がり、生まれるとすぐに首を絞めて殺してしまう、というのだ」と書いていらっしゃいます。

 


大飢饉、室町社会を襲う! (歴史文化ライブラリー)

 

宋希璟は対馬で漁民から魚の売り込みを受けます。その船の中に一人の僧が跪いて食料を乞い、宋希璟は食料を与えるついでに会話をします。

僧「私は江南台州の小旗(小部隊長)でした。一昨年捕虜となりここに連れてこられました。髪を剃られて奴隷となっています。苦しいのでみなさまとご一緒したいです」(T_T)

漁民「米で支払うのであればこの僧を売りますよ。さあ買うのか買わないのか、どうします?」

 

いろいろな情報が含まれています。まず「奴隷」というのは当時で言えば下人身分でしょうが、僧形が一つの下人の表徴であった可能性があります。

 

『老松堂日本行録』で有名な箇所と言えばいわゆる「上乗」について述べた箇所です。

 

東からくる船は東の海賊を乗せれば西の海賊は危害を加えず、西からくる船は西の海賊を乗せれば危害を加えない、というものです。そこで七貫(ざっくり70万円)を出して東の海賊を乗せて通行しているシーンです。これが出てくるのは芸予消灯の蒲刈です。ちなみに宋希璟はこの海賊と意気投合したようです。

 

意気投合したのはいいのですが、そもそも宋希璟がこういう苦労をするのは、安芸国室町幕府の威令が行き届いていないからです。それ以外ならば、海賊衆は室町幕府および守護に雇われていますので、個別に交渉する必要はなかったはずです。しかし幕府の威令が行き届かないところでは自力救済で解決するしかありません。

 

『海東諸国紀』では申叔舟が三管領四職に加えて渋川氏、甲斐氏、伊勢氏にまで目配りをしていることが目につきます。

 

宋希璟にせよ、申叔舟にせよ、日本を非常によく観察し、日本の内実や歴史を実によく踏まえていることがわかります。

 

申叔舟は「日本国紀」の中で神武から全ての天皇を書いていました。神功皇后の時に新羅との関係が、応神天皇の時に百済との関係が始まったと記すなど、かなり日本の史書を読み込んでいることが伺えます。

 

これとは対照的に日本人による朝鮮紀行は見られません。この理由はどこなのか、ということは残念ながら私にはわかりません。当時朝鮮から来日した使者の数よりもむしろ日本から朝鮮に行った使者の方が多いのではないか、という程度には日本の使者も朝鮮に行っています。しかし彼らによる記録が見られないのは、やはり朝鮮側には倭寇問題という深刻な外交課題を抱えていたのに対し、日本側は大蔵経を求めに行く、というようにかなりアバウトな内容であったことが原因かと思われます。

 

申叔舟が書状官として来日した時の通信使の卞孝文についてはいろいろ気になることがあり、これからも調べていく所存ですが、以前も述べましたように、少年の国王である足利義勝のもとでの混乱を見るにつけても、申叔舟が幼少の国王を廃して壮年の国王にすげ替える癸酉靖難に加担した彼の心持ちがわかる気がします。

 

次回の木曜日は室町時代蝦夷地を取り上げます。

 

蝦夷地と日本との関係を管理していた安藤氏を主として取り上げます。

 

今回若干人数が少なかったのですが、皆様のご来聴をお待ちしております。

ticket.asanojinnya.com