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室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

光厳天皇綸旨(『朽木家古文書』国立公文書館所蔵)

古文書入門です。

 

『朽木家古文書』二号文書の「光厳天皇綸旨」です。難しいところがありますので、とりあえず読めるところだけでも読むことをお勧めします。前二行は読みやすいです。途中から急に字が崩れてきます。

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とりあえず釈文です。上の文書と照らし合わせてお読みください。

当国岡成・市安・松重等

名濫妨事、左兵衛尉

時経申状〈副具書〉如此、子細

見状候、可被沙汰付雑掌

天氣如此、仍執達如件

  九月廿三日   式部少輔

越中守殿

 

綸旨という文書形式についてはこちら ↓ のエントリでもご紹介いたしております。

sengokukomonjo.hatenablog.comざっくりといえば天皇が出す「御教書」形式の文書です。「御教書」とは貴人の出す奉書のことです。奉書というのは奉者が主人の意をうけたまわって出す文書です。従って差出人と発給者が一致しません。発給者というのはその文書の主体です。つまりその文書が伝えている意向の持ち主です。この文書でいえば光厳天皇になります。差出人はこの文書を実際に書き、署名している人物です。この文書の場合、岡崎範国です。

 

一行目の最初は「当国」と読みます。「国」という字は異体字の「国」です。多くの文書では「國」を使います。この岡崎さんは「国」を使うのが好きだったようです。

次の「岡」は周りが小さく中が大きいのでわかりにくいです。「あ」みたいに見えるのは「安」です。ちなみに「あ」の字母です。最後の「ホ」みたいなのは「等」です。

 

二行目の二字目から「濫妨」という字があります。これは権利侵害のことを意味します。

 

三行目の真ん中付近に小さい字が見えます。「割注」と言います。上の部分の補足説明です。「時常申状〈副具書〉如此」というように読みます。

 

四行目の「見」はかなり崩れていて読みにくいですが、まあそういうものです。「状」はわかりやすいと思いますが、下の「候」が少し読みにくいですね。下の方の「沙汰付」というのも癖が強いので読みにくいです。

 

 「越中守」が誰かはわかりませんが、とりあえず朽木氏ではありません。朽木氏は文中に「左兵衛尉時経」として出てきます。

 

ここで不思議に思いませんか?なぜこの文書は越中守のところではなく、朽木氏の手元に残っているのか。

 

これは当時の文書の出され方に原因があります。この文書は朽木時経の権益を守るために出されたものです。「沙汰付」(さたしつく)という言葉が、権益を守る、という意味です。中世は自力救済の世界です。自分の権益は自分で守らなければなりません。この文書を出した光厳天皇は時経の権益を守ってくれません。文書を出して時経に渡すだけです。あとはこの文書を使って時経が侵害された権利を回復すればいいだけです。従って権利を回復する主体である時経のもとにこの文書は残っているのです。

 

五行目は「者」(てえり)のみがあって、改行して「天気」とあります。「天気」というのは「天皇の意向」を示します。改行するのは「天気」に対する敬意を表します。改行することで敬意を表すやり方を「平出」といいます。

 

では読み下しです。

 当国岡成・市安・松重等の名の濫妨事、左兵衛尉時経申状〈具書を副う〉此の如し、子細は状を見候、雑掌に沙汰し付けらるべし者(てえり)。天氣此の如し、仍って執達件の如し

  九月廿三日   式部少輔

越中守殿

 

全体的に癖が強く、読みにくい文書でした。綸旨はそれほど大きく崩れる事もないのですが、これは結構疲れます。

 

これは関連史料もあるのですが、とりあえず表面的になでて終わりにします。

お疲れ様でした。