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室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

オンライン日本史講座5月第3回「江戸中期の天皇」報告

無事終了いたしました。

 

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中御門天皇桜町天皇桃園天皇後桜町天皇・後桃園天皇という、あまり知られていない天皇ばかりですが、それだけに掘り下げる価値もあるかと思います。

 

尊王思想というのが勃興してくるのもこの天皇の時代です。概ね18世紀史が該当します。

 

この時期は朝幕関係が安定しており、お互いにwin-winの関係にある時期です。したがってその時期における尊王思想は倒幕には直結しません。ここ大事です。逆に尊王思想は幕藩体制を強固にする側面すらあります。

 

竹内式部の事件にしても、竹内式部は倒幕を主張したわけではありません。「王政復古」という言葉が使われていますが、要するに幕府が貴く朝廷が貴くないように思われているのは朝廷の無能さの現われでしかない、朝廷が本来の姿に戻れば幕府も朝廷にもっと任せてくれるだろう、というものです。

 

したがって実は幕府にとっては式部を罰する謂れはないわけです。これは摂関家桃園天皇の側近グループの争いであり、幕府は最終的に摂関家を代表した一条道香の強硬姿勢に引きずられるように宝暦事件の始末をつけたわけです。

 

この辺は以下の書籍に詳しいです。

 


天皇の歴史6 江戸時代の天皇 (講談社学術文庫)

 

 桃園天皇崩御に際し、側近の台頭を忌避した摂関家後桜町天皇を挟んで後桃園天皇に行為が継承されていったわけですが、その努力も虚しく後桃園天皇は皇女一人を残して崩御します。

 

後継者を探さなければならないドタバタになったわけですが、ここまでのドタバタはあたかも称光天皇崩御して後花園天皇が迎えられるまでのドタバタぶりを彷彿とさせます。伏見宮邦頼親王も候補に上がりますが、最終的に閑院宮家の兼仁親王に白羽の矢が立ちます。

 

これは結局伏見宮家が後花園天皇とその弟の貞常親王の時に成立し、共通の男系祖先が貞成親王、さらに共通の男系天皇になると崇光天皇となり、離れすぎているのが問題だったかもしれません。

 

今回出た論点として「男系」はいつから強く意識されるようになったのか、ということが言われていますが、この辺は動画の中でいろいろ話されているので関心があればぜひご視聴ください。最後の方です。

 

結果的に皇統は男系で継承されているのですが、日本が男系にこだわる国か、というとそうではないことは大名家が大量に養子をとっていることからも明らかです。摂関家すら養子で継承されています。しかしその中で天皇家徳川将軍家神武天皇の男系子孫・東照大権現の男系子孫が継承し続け、またそうなるように工夫を凝らしている点は特徴です。これがいつごろ強く意識されるようになったのか、というのはまだまだ難しい問題ではあります。

 

江戸時代の天皇の顔、特に後桃園天皇の顔について意見が交わされました。

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桃園天皇 陽明文庫

ジャニーズ系の醤油顔のイケメンです。〇〇王子とか言われそうです。いや、だから王子どころか天皇ですから。

 

これを例えば後陽成天皇の顔と比べればいろいろ違うことが分かります。

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後陽成天皇 泉涌寺

後陽成天皇は多くの皇子をもうけ、また長生きしましたし、霊元天皇後水尾天皇も長命で子沢山でした。しかし東山天皇以後は短命で皇子も減少し、皇位の継承に支障をきたすようになっていったのです。

 

江戸時代の天皇のあり方を学ぶことは、現代の天皇のあり方をどうするのか、という議論に資するところが大きいと思います。

 

それから天皇の容貌を描いた絵について考察するのもなかなか面白そうだと思います。天皇の「御真影」を描くわけですから、当代一流の絵師が担当しています。美術品としても非常に価値の高いものであって、美術史の立場はもとよりその背景を考察する思想史的な観点から論じていくのもいいかもしれません。

 

問題は図版の量が半端ないのでこれを例えばいつもお世話になっている『十六世紀史論叢』や『日本思想史研究会会報』に投稿すればものすごく迷惑だと思います。『立命館文学』でも嫌がられるのではないかと思いますので、ブログしかできないのではないか、という気がしてきました。誰かやりませんか?

 

というわけで歴代天皇の「ご尊顔」をいろいろ考えるという課題もやってみるのもいいかもしれません。

 

その場合ですが、明治天皇大正天皇昭和天皇上皇今上天皇はとりあえずパス。現在ご存命や近い天皇はなんとなくやりづらい上に、まさに「御真影」に関わって研究がありますのでパスして、古い方は鳥羽法皇以前の顔は似絵ではないのでこれもパス、という感じです。結構ハードルは高そうです。どこか、商業出版してくれるところありませんかね?