尼めうこ(妙語)譲状(『朽木家古文書』107 国立公文書館)
今日は仮名書きの書状です。女性の書状は概ねひらがな書きになりますが、鎌倉時代の譲状では男性の譲状にもひらがな書きの譲状が結構多く、私のようにひらがなのくずし字が苦手な人間には辛いところです。もっとも漢字のくずし字ならば得意なのか、と言われれば、それも口ごもるしかありません。
www.digital.archives.go.jpここからダウンロードすることを強く推奨します。下の解説はこの文書と見比べながら読んでいただくと分かりやすいかと思います。こういうのを動画で解説すれば売れそうな気がしています。まあ解説者がイケメンでさわやかな感じでいれば、の話ですが。
では今回は1行ずつ丁寧に見ていきましょう。これは
⬜︎⬜︎ゆつりしやう
これは「譲状」を漢字で書いてありますが、「ゆ」は読めますが、「つ」は慣れていないと「えっ!」と思う方もいるでしょう。ただこのブログの読者の多くは専門家が多いことがアクセス傾向から明らかですが(汗)。これは「つ」の字母である「川」の形をそのまま残しています。「り」は「里」を字母とした変体仮名です。あとは普通に「しやう」と読めます。
ゆつりわたす 所りやうの事
「ゆつ」は上と一緒ですがこちらの「り」は「利」を字母とする現代と同じかなとなっています。どの「り」を使うのかは全くの自由です。「わ」も分かりますが問題は「た」と「す」です。「た」は「多」を字母とする変体仮名で、「す」は「春」を字母とする変体仮名です。「所」は漢字なので簡単に読めます。「り」は「里」で、「やう」は普通です。「の」は丸い部分です。「事」は漢字なので読みやすいです。
一所 た(堂)か(可)しまのつ(川)け(遣)ちの(能)うち
あんすみやう
これ、漢字で書くと「一所 高嶋の付け地のうち、案主名」となります。
「た」が虫食いで分かりませんが、「堂」を字母とする変体仮名です。「か」も小さい「の」の出来損ないみたいなのがそれですが、「可」を字母としています。長く伸びた縦棒が「し」で「まの」は普通ですが、「つ」は「川」の形を残しており、「け」はまた虫食いですが「遣」を字母としています。この虫はややこしい変体仮名を使っているところに限ってしっかりと食っていますので結構ムカつきます。「ち」は普通ですが「の」が「能」を字母とする変体仮名で、結構よくみかける「の」ですので覚えた方がいいでしょう。あとは現在のかなと同じです。
一所 こ(古)一てうのちと(堂)うしき
これは漢字では「一所 後一条の地頭職」となります。
「こ」が「古」を、「と」が「登」を、それぞれ字母としていますが、「と」についてはこれも肝心なところが虫食いなので自信がないです。間違っていたら虫のせいにします。「う」がやたら伸びきっていることを除くとあとは普通です。
くた(堂)んのところハ、四ら⬜︎ゑも(毛)んゆき(支?)つな(那)ニ
ゆつり(里)た(堂)ふへしといへともちゝ四郎
さゑもん入た(多)うのな(奈)らひをく所をも
そむきことことくふけ(遣)うのもの(能)な
る(留)に(尓)より(利)てなか(可)くかんた(多)うし候ぬ
「件の所は、四郎右衛門行綱ニ譲り賜うべしといえども、父四郎左衛門入道の習い置く所をも背き、ことごとく不孝のものなるによりて長く勘当し候ぬ」
ちなみにここに出てくる「行綱」は後に朽木義信と裁判沙汰になる尼心阿の父親です。ということはこの文書は前回の文書や最初に取り上げた足利直義裁許状の原因となった書状であることがうかがえます。最後にリンクを入れます。
つけ(遣)ちの(能)ほんゆつりしやう
こ一てうのほ(本)んゆつり(里)し(新)やう ⬜︎れハしひつ也
「付け地の本譲状、後一条の本譲状、これは自筆也」
をい之ては(者)の三ろうさゑもんよりの(能)ふニ
かの所々をゑいた(多)いをか(可)きりてゆつ
り(里)わた(多)す(春)所也さらにた(多)のさま(満)た(多)け(遣)
あるへか(可)らす候
しやうをう五ねん十月廿四日
あまめ(免)うこ(古)(花押)
「甥の出羽三郎左衛門頼信にかの所々を永代を限りて譲り渡す所なり。さらに他の妨げあるべからす候」
今回は多くの変体仮名が出てきました。変体仮名の勉強に役立つ書籍などを集めておきました。また今回の文書の関連エントリを下に挙げておきます。
変体仮名は『くずし字用例辞典』の末尾にも載っていますので、それをみればいいのですが、変体仮名をマスターするのに、個人的に役に立ったのはkulaというソフトです。iOSやアンドロイドで動きます。
あとはこの書籍です。変体仮名にかなりスペースを割いていて、初心者から無理なくくずし字解読力が伸びていきます。
あとはこれ。
この辺のどれかを立ち読みして好みで選べばいいかと思います。私は両方ともやりました。