『戦国古文書入門』(東京堂出版、2019年)の執筆の裏話
渡邊大門編『戦国古文書入門』執筆者の一人の秦野です。
私以外の執筆者のお名前も知ることができました。みなさま、その界隈の一流の方ばかりで、私などがそこに混ざっているのはおこがましい限りです。
私は実はくずし字をかなり苦手にしておりまして、例えば博士課程の時に院ゼミで読んでいた『後法成寺関白記』(近衛尚通の日記)の担当部分が一晩徹夜しても読めず、後輩に手伝いを頼んで15分ほど席を外していた(宿直のバイト帰りだったので顔を洗ったり髭を剃ったりしていた)ら「読めました」とほぼ完璧に出来上がった翻刻を持ってこられて「あ、ワイ、こういう才能ないから人に頼むことにしよう」と心に決めたことがあります(ヲイ)。
そういう私ですから、自分の経験などを元に読み進めるのは危険です。
どうしているかといえば、『くずし字用例辞典』(東京堂出版)をがっつり使います。どの程度使うかといえば、ほぼすべての文字について『くずし字用例辞典』を引きます。一応活字になっているものはあるのですが、しばしば間違いがあります。人の作った読み本を無批判に使って同じ間違いを繰り返すのははっきり言って恥ずかしすぎる。いや、くずし字について自信のある人ならばその過程は省略できるでしょうが、私にはそれを愚直にするしかない。
解説をする時に「この字は典型的な形です」=(ワイでもみたことがある)、「この字は初心者は戸惑うでしょう」=(ワイ、めっちゃ戸惑っている)というだけで作ってしまっては、これまた問題です。(うっわ、これ、めっちゃむずいやん)と思って「この字はかなり難しく戸惑いますが、頑張って慣れてください」と書いたのに、実は頻出する文字であるのでくずしが大きいだけ、というのもありがちです。
こういうトラップにはまらないために私が愛用しているのは『覚えておきたい古文書くずし字200選』と『覚えておきたい古文書くずし字500選』(柏書房)です。これを参考にして字の難しさを判定しています。これもだいたい一字一字めくって調べておきます。
これだけでは足りません。上にあげたくずし字の書籍はその多くが近世文書を基にしています。戦国古文書の問題は、近世に比べてくずし方が自由である点です。従ってこれらではうまく検索できないことがあります。
そこで活躍するのが「ネットde真実」です。
ここにはお世話になっています。ただここを有効に使うためにはある程度候補を絞る必要があります。役に立つのは「え〜?この字、本では〇〇と読んでるけど、ほんまかいな〜。◆◆と違うんかいな」と思った時に調べます。
一つ心残りなのは、私ももっと早くにこのような、一字一字まで懇切丁寧に解説してくれる本に出会っていたら、人生変わったかもしれない、ということです(←他人任せすぎてどんな素晴らしい本でも豚に真珠だと思う)。