オンライン日本史講座2月第3回「朝鮮使節の見た室町日本」に向けて3
「朝鮮使節の見た室町日本」に向けての第3回目です。ここでは基礎的な話をしております。突っ込んだ話は当日です。
朝鮮使節はしばしば来日しています。
有名なところでは足利義教のお悔やみにやってきた卞孝文がいますが、この使節が有名なのは卞ではなく、書状官だった申叔舟が後に『海東諸国紀』を記したり、世祖の簒奪に大いに寄与してのちの韓流ドラマでは悪役になっていたり、死に際して残した言葉が「日本と和を失ってはなりません」だったという親日派として知られていたりするからです。
しかしその前に押さえておかなければならないのが朴瑞生(パク・セソン)です。
彼は足利義持から足利義教の代替わりにやってきた人物ですが、非常に日本に関して冷徹な観察をしています。
例えば「国には中央銀行は存在しておらず、商人にそれを任せている」という記述などは公方御倉の存在を的確に指摘しています。また国王には倭寇の実効的な抑制策を取ることは不可能で、守護大名に直接交渉すべきことを書き残しています。
そして卞孝文です。卞は足利義勝への代替わりの儀礼のために来日しましたが、いろいろなトラブルに巻き込まれます。
以下のエントリで詳細に述べています。ご参照ください。
要するに国王が幼少で権臣が力を振るっていると、国王の権威も低下して国家そのものの威信が失われてしまい、周辺諸国に対するメンツも潰れるし、迷惑もかけるし、でいいことがない、ということを書状官の申叔舟は身を以て思い知ったことでしょう、ということです。
のちに世祖による癸酉靖難に申叔舟が主体的に関わるのもその辺の事情があるのではないか、と妄想をたくましくしております。
『海東諸国紀』は「日本国紀』(!)と「琉球国紀」を日本の柱としています。「海東諸国」というのが現在の「日本」に相当しますが、当時は日本と琉球という国になっていました。
「日本国紀」(!!)には最初に「天皇代序」があり、ついで「国王代序」があります。明とは異なり朝鮮では天皇の存在を知っていたことになります。
天皇代序の凄いところは「天神七代」「地神五代」から始まるところです。申叔舟の書いた「日本国紀」ではその後「人皇の始祖は神武天皇なり」というところから始まっています。神武天皇の「名は狭野」とあっさりしています、
十五代天皇に神功皇后が挙げてあるのは大正時代までの皇統譜に合わせてあります。
十六代の応神天皇の時に「百済書籍を送る」「百済王の太子来る」という記述があり、日朝関係の始原には彼らも関心を払っていることがわかります。
安康・清寧両天皇の事績は少し詳し目です。内紛が記され、最終的に顕宗・仁賢が立つことを説明しています。武烈天皇については「人を殺すを好む」と当時の平均的な記述がなされ、継体天皇は意外とあっさりと処理しています。むしろ欽明天皇・敏達天皇が詳しいです。
崇峻の暗殺の話はなく、推古については詳しいものの聖徳太子は死んだことしか記録されていません。逆に推古の時代に中臣鎌足の生誕の記事が見られるのが新鮮です。ちなみに大化の改新の記録はありません。
これを延々続けるとそれはそれで面白いのですが話がずれますので、それくらいにしておいて、「国王代序」に移ります。
「国王代序」では源頼朝の活躍の次は「仁山」が活躍します。足利尊氏のことです。その後「瑞山」が継ぎ、その後は義満が継ぎます。義満の死後は義持が継ぎ、義持の死後は義教が継ぎます。義教は国王権力を強化するために大臣の勢力削減を試みますが、大臣の赤松の従兄弟で義教のお気に入りに赤松の所領を分けようとし、それを知った赤松が義教を殺害し、大内持世も殺されます。管領の細川が義勝を立て、義勝死後は義成がたち、義成死後は義政が立つ、と一人余分な人物が出てきます。義成(よししげ)は義政の最初の名前です。
「国中においては敢て王を称さず、只御所を称す」とあり、国王号が使われていないこと、「毎歳の元、大臣を率いて天皇に一謁し、常時はともに相接せず、国政および隣国を聘問することは、天皇は皆な与らず」と書かれています。
以上、以下の岩波文庫『海東諸国紀』を参考にしました。
「天皇宮」「国王殿」「畠山殿」「細川殿」「左武衛殿」(斯波武衛家)「山名殿」「京極殿」「右武衛殿」(渋川家)「甲斐殿」「伊勢守」が記されます。
九州では「小二殿」が詳しく書かれています。
地図では壱岐と対馬が異常に大きく、彼らの関心をうかがわせます。
「琉球国紀」は「日本国紀」の数百分の一で、これは朝鮮の関心が琉球にはほぼなかったことの反映でしょう。琉球国の使者はたまにやってきますが、実際には対馬に丸投げだったようです。
この辺も含めた詳しい話は明後日の木曜日午後8時30分からZoom(ネットを使ったテレビ電話システム)にてお待ちしております。
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