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室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

オンライン日本史講座三月第一回「摂関政治と天皇」2

摂関政治期における皇位継承の一つの特徴は皇統の並立です。

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万世一系」という言葉はいささかミスリーディングで、しばしば皇統は並立していました。もっとも理念としては「万世一系」が望ましく、そのためにはしばしば強引な手段も取られます。

 

醍醐天皇村上天皇を「延喜・天暦の治」と呼びます。摂関が設置されておらず、天皇の親政が行われていた理想の時代です。後醍醐天皇後村上天皇がそれを理想とし、それぞれ加後号にしています。

 

しかし前回に書きましたように、当時の摂関というのはあくまでも太政大臣の職務のことであり、したがって摂関という地位が常置されているわけではありませんでした。したがって摂関が置かれていないということが即天皇親政が十全に行われていたことを意味しません。

 

醍醐天皇の時には父親の宇多上皇が健在で、父権を通じた政治への介入が行われていました。特に藤原時平と並んで宇多が引き立てた文章博士出身の菅原道真に内覧の権限を与えたことに貴族層の反発が強まり、道真は失脚します。

 

道真の怨霊によって時平と醍醐が相次いで没したため、その後の政治は道真と親しかった藤原忠平の主導するところとなり、幼帝朱雀天皇を摂政として後見したのちは関白として引き続き朱雀を後見します。これはもちろん忠平が太政大臣だったからであり、太政大臣のポストと摂関は不可分のものだったのです。

 

朱雀は後継者を残せなかったため弟が即位します。村上天皇です。村上天皇の時代には忠平の死後の後継者をめぐり、忠平の子で左大臣の実頼と右大臣の師輔の兄弟のいずれも太政大臣に登ることはなく、結果として天暦の治が実現します。もっとも「延喜・天暦の治」というのは後世の喧伝であり、摂関の不在が即藤原氏の勢力後退を意味するのではないことはもちろんです。

 

村上天皇の次は冷泉天皇が即位しましたが、冷泉天皇には奇行が多く、後見の必要性から外戚ではなかったにも関わらず藤原氏の長老であった実頼が関白に就任します。これは冷泉天皇外戚にあたる師輔がすでに物故していたことと、師輔の子どもたちがまだ若年であったことが原因です。しかし外戚であることに権力の源泉があるのが摂関政治の一つの特徴です。

 

摂関という地位は太政大臣職掌という話をしましたが、厳密に言えば少し条件が足りません。天皇外戚太政大臣になったもの、というのがここまでの先例でした。良房、基経、忠平というのはそれに当てはまります。村上天皇の時に実頼が関白にならなかったのは、実頼の娘が皇子を産むことなく早逝したからです。一方皇子を多く生んだ安子の父の師輔は村上の在位中に死去し、摂関になることはありませんでした。

 

実頼は関白になりましたが、あくまでも中継ぎでしかありません。冷泉の後継者選びで源高明(醍醐皇子)を外戚に持つ為平親王を回避して師輔の次男の兼通に養育されていた守平親王皇位に登ります。円融天皇です。

 

円融は当初は冷泉の皇子が成人するまでの中継ぎとみなされており、円融の即位と同時に冷泉の皇子の師貞親王立太子します。やがて師貞親王、つまり花山天皇に譲位した円融ですが、その時に懐仁親王を皇太子とすることに成功します。

 

藤原師輔の子の兼家が花山天皇を騙して懐仁親王皇位を継承(一条天皇)すると、その皇太子には冷泉皇子の居貞親王になります。これは円融と不仲だった兼家がゴリ押ししたものとみられます。

 

ちなみに冷泉と花山両天皇には奇行が伝えられていますが、倉本一宏氏によると、それらはいずれも後世の二次史料にしか出てこず、後に円融皇統に一本化された後に冷泉と花山を奇行の持ち主として円融皇統を正当化するための記述ではないか、ということです。

 


平安朝皇位継承の闇 (角川選書) [ 倉本一宏 ]

 

一条天皇のもとでは右大臣で一条天皇の外祖父であった兼家が摂政になります。これは実頼の息子の頼忠が太政大臣に居座っていたからです。花山天皇の時には頼忠は関白でしたが、花山天皇の退位とともに関白を辞任していました。兼家は右大臣を辞任した上で摂政になります。これは摂政が大臣に付随する職務名から、大臣の地位とは独立したもう一つの地位になったことを意味しました。

 

兼家の後は嫡子の内大臣道隆が関白となり、やがて道隆は内大臣を辞し、関白単独になります。ここに摂関は大臣に付随する職掌を意味するものから、完全に独立した一つの官職として確立します。

 

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