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室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

3月28日オンライン日本史講座『後鳥羽院政と承久の乱』予告1

次回の3月28日(木)のオンライン日本史講座は最近相次いで新書が出版されて話題となっている承久の乱です。

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一冊何か参考になる本を挙げろ、と言われれば私は坂井孝一氏の中公新書をお勧めします。中公新書の歴史関係はとりあえずおすすめです。

 


承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)

 

あと私は一連のこの講座では講談社の『天皇の歴史』シリーズをよく使っています。保元の乱から応仁の乱まではこの一冊です。

 


天皇と中世の武家 (天皇の歴史)

 

さて、本題です。

 

平氏は滅亡しましたが、肝心の三種の神器安徳天皇は失われました。当たり前ですが、平氏を追い詰めると当然神器を投げ込んで最後の憂さ晴らしをするのは見えています。もはや交渉の余地なく殺しに来る相手に何らかの配慮は必要ありません。天皇の玉体を損ねるのも三種の神器を毀損するのも当然の理です。

 

しかしこれが後鳥羽天皇にとって大きなコンプレックスとなります。

 

後鳥羽天皇といえば、我々後世の人間は承久の乱という一事で全てを解釈してしまいがちです。したがって後鳥羽は「倒幕」という一事でもって評価してしまうのです。しかし実際それほど細かく見なくても後鳥羽そのものが当初から反幕一辺倒ではありません。後鳥羽の事績を少し細分化してみてみましょう。

 

まず後鳥羽はその当初は後白河院政です。頼朝の征夷大将軍就任をめぐる綱引きが実際にどの程度存在したのか、については議論もあるところで、私自身「よくわからない」としか言いようがありません。征夷大将軍である事の意味もかなり近年では揺れています。

 

後白河の死去に伴い後鳥羽親政が始まりますが、この時期には力を持ったのが後鳥羽の乳母だった藤原範子の夫となった源通親です。彼はもともと平氏派の貴族でしたが、平氏都落ちに離反し、その後は後白河のもとで勢力を伸ばしてきた村上源氏嫡流の久我家当主です。

 

通親は源頼朝と親しい九条兼実の追い落としを図り、後鳥羽への頼朝娘の大姫の入内を図ります。これは大姫の病没により叶いませんでしたが、兼実の失脚に繋がります。

 

この建久七年の政変の背景には摂関家中心の厳格な政治を遂行する兼実への中下級貴族の反発に配慮した通親が兼実を追い落とすために、兼実のバックにいる頼朝との離反を図った、という側面が強いのですが、一方で頼朝の京都とのパイプが失われるという結末を招きました。

 

権力を固めた通親は自身の妻の連れ子の在子を後鳥羽に入内させて産ませた為仁王を践祚させます。土御門天皇です。通親は外戚の地位を手に入れ「源博陸」と呼ばれるようになります。「博陸」とは関白の別名です。

 

さらに後鳥羽は守成親王立太子させます。のちの順徳天皇です。これは温厚な土御門天皇では心許ないので気性の激しい順徳天皇を立てた、と言われますが、結果論です。そもそもこのころ順徳は3歳です。土御門天皇は順徳より2歳上にすぎません。3歳と5歳の兄弟の性格を見て「将来幕府に対抗できる」とか考えられるのでしょうか。なぞです。私は土御門から順徳への皇位の移動はそのような問題ではなく、通親からの自立の過程である、という坂井氏の論に賛同します。

 

後鳥羽にとって頭の痛いのは安徳は西海に沈み、命を奪われましたが、安徳の異母弟の守貞親王は帰還し、一つの政治勢力となっていたことでした。河内祥輔氏は頼朝が幼帝の即位に難色を示し、守貞擁立を図った直後に急死したことで守貞擁立運動への弾圧が反通親運動である三左衛門事件に繋がった、としています。この事件で鎌倉幕府と関係の深かった西園寺公経持明院保家らが失脚し、また文覚が捕縛され、文覚と頼朝の庇護下にあった平維盛の遺児の六代御前が処刑されます。

 

これで鎌倉幕府の京都における影響力は大きく減退しました。

 

一方で鎌倉幕府と後鳥羽は早期の幕引きを図り、大江広元を中心として幕府側もこの事件の解決に協力し、また後鳥羽は関係者を早期に赦免しています。この結果、後鳥羽の政治権力は大幅に強化され、幕府も後鳥羽を支持することになります。

 

頼朝の死後の鎌倉幕府は混乱を極め、最終的に頼朝次男の千幡が後継者に定まります。その千幡に「実朝」という名前を与えたのは後鳥羽でした。それ以降、実朝と後鳥羽の蜜月関係が始まります。

 

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