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室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

平顕盛譲状(『朽木家古文書』134 国立公文書館)

古文書入門です。

 

国立公文書館蔵『朽木家古文書』134号文書(史料纂集『朽木文書』では133)です。

www.digital.archives.go.jp

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平顕盛譲状 朽木家古文書 国立公文書館

変体仮名が大量に使われています。一行ずつ解説を加えながら翻刻します。

ゆつりわたす しそくまんしゆ丸所

 二つめの「つ」は「徒」、「り」は「里」、「た」は「多」、「し」は「志」、「そ」は「所」をそれぞれ字母としています。「譲り渡す、子息万寿丸の所」となります。

 たんこの國くらはしのかうの内よほろ

 「た」は「堂」、「の」は「能」、「は」は「者」、「ほ」は「本」をそれぞれ字母としています。あとは現在我々が使っている仮名です。「丹後国倉橋郷の内、与保呂」ということです。

の村のちとうしきの事

 「の」は現在の字母と同じ「乃」ですが、原型をとどめています。一行前の「の」はすべて「能」が字母ですが、この行の「の」は両方とも「乃」です。

かまくらあまなハ魚町東頭地一圓事

 ここは現行の仮名の字母と一致しています。「魚」が下の四つの点ではなく「大」であることと、縦線が一本省略されていることに注意が必要です。「頭」は実際には「頰」であって、「東頰」(ひがしつら)だそうです。「東頰」とは東側という意味です。漢字を入れますと「鎌倉甘縄魚町東頰地」となります。

むさしの国ひきのこをりの内いしさか

の村事

最後の「か」が「可」を字母としていますが、他は現行の字母です。「武蔵国比企郡の内石坂の村事」です。

あはの國くすわらの村事

 「は」が「者」、「の」が「能」です。「安房国葛原の村事」です。

ちうたいの大刀うち刀の事

 「重代の太刀・打ち刀の事」となります。

 

本文は一気に説明します。

右所領とも并屋地・大刀・うち刀、代々

御下文・てつ(徒)きせうもんあいそゑてまんしゆ丸

やうした(多)るあいた(多)ゆつ(徒)り(里)わた(多)す物也

ゑいたいさうてんとしてこれをちき

やうすへし、仍状如件

元徳貳年九月廿二日 平顕盛(花押)

 「てつきせうもん」は「手継證文」、「ゑいたいさうてん」は「永代相伝」、「ちきやう」は「知行」です。

したがって適宜漢字を補うと次のようになります。

右所領ども并屋地・大刀・打刀、代々御下文・手継證文相添えて万寿丸養子たる間、譲り渡す物也。永代相伝としてこれを知行すべし

 次の行からは譲状の効力を幕府が保証した下知状になります。これを「安堵の外題」といいます。嘉元元年(一三〇三年)以降、鎌倉幕府は譲与安堵には申請者の提出した譲状の余白に安堵の旨を書き込む、という形をとります。

任此状可令領掌之由依仰下知

如件

元徳三年六月廿日 右馬権頭(花押)

         相模守(花押)

 読み下しは次の通りです。

此の状に任せて領掌せしむべきの由、仰せによって下知件の如し

 人名ですが、万寿丸は朽木氏経で、池顕盛の養子となって池氏の所領を継承します。これを保証した幕府の担当者ですが、「右馬権頭」は連署の北条茂時、「相模守」は十六代執権の赤橋守時です。