拙著『乱世の天皇』見どころ3ー室町時代のヒーロー
拙著『乱世の天皇』関連のネタです。室町時代のネオヒーロー(阪神タイガースのアンディ・シーツの応援歌)を提案しようと思っています。
今谷明氏の『謎解き中世史』という本があります。
この中で永井路子氏との対談で永井路子氏が室町時代のドラマ化の難しさとして「ヒーローがおりませんでしょう?」とおっしゃっています。そして「畠山義就などはヒーローになってもいい人物だとおもうんですけれども」というのを今谷氏が引き取って「一つの候補ではありますね」とおっしゃっています。
今、室町時代が少しばかり流行しているのも案外そこであるのでは、という気もしています。石原比伊呂氏が『足利将軍と室町幕府』の中でそのようなことをおっしゃっています。足利将軍家は「しょっぱい印象」の存在に関心を持つ人が増えているのではないか、ということです。
足利将軍と室町幕府―時代が求めたリーダー像 (戎光祥選書ソレイユ1)
足利尊氏や足利直義にように南北朝時代にはヒーロはいます。何と言っても楠木正成は時代を超えたヒーローでしょうし、足利尊氏も戦後にはしっかりヒーロになっている、と言ってよいでしょう。
将軍で言えば足利義満から足利義政まで。ここはリアルで人気がありません。永井氏のいう「ヒーローの谷間の時代」ですね。その前後の観応の擾乱は亀田俊和氏の、応仁の乱は呉座勇一氏の、それぞれ著名な中公新書が出ています。
観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い (中公新書)
この谷間がガチで「ヒーローの谷間の時代」ですね。
ヒーローって意外と難しいと思っています。
例えば個人的な意見ですが、畠山義就はヒーローたりえないと考えています。永井氏と今谷氏は可能性を見出していますが。なぜかと言えば、彼に何か大義はあるのか、ということにつきます。彼が戦闘の名人であることは事実でしょう。そして畠山の家督を細川勝元と山名宗全によって取り上げられ、足利義政によって追討される悲劇性はあります。そしてその運命に抗って宗全を味方につけ、家督を戦い取った、という点はドラマ性はそこそこあります。しかし所詮は自分のため。畠山政長がとんでもない悪役であればともかく、そうでもないのであれば義就はヒーローになり得ません。
そこで後花園天皇です。漢詩を詠んで民の苦しみを将軍足利義政に伝え、それを顧みない義政を叱責して改めさせる、という点で一つ条件クリア。しかも派手なアクションとしての禁闕の変、ジレンマをはねのけて自分の道を切り開く嘉吉の乱の治罰綸旨、蹉跌の果ての失意の死、しかもそれは壮絶な「戦死」とも言える死に様で、死してなお戦い続けるわけです。
後花園天皇こそ「ヒーローの谷間の時代」に出現したネオヒーローなわけです。そうした「ヒーローの谷間の時代」にヒーローを見出そうとする試みとしても拙著を詠んでいただければ、と思います。
よろしくお願いします。