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室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

伊勢九郎盛頼ーゆうきまさみ氏『新九郎、奔る!』を解説する

『新九郎、奔る!』の荏原編で重要な役割を果たす人物が新九郎の従兄弟の伊勢九郎盛頼です。伊勢盛定の兄の伊勢掃部助盛景の子で、家督相続後は盛頼が「掃部助」の官途を名乗っています。

 

伊勢盛景と伊勢盛定は確執があったようで、『新九郎、奔る!』では第3巻の「外伝 新左衛門、励む!」で詳細に記されています。レポートやら何やらで詳しい出典をお望みの方には『蔭涼軒日録』文明十七年(一四八五)十一月二十五日条にその話が出ております。

 

伊勢掃部助家は備中国祥雲寺ともめていました。どうやら文明五年(一四七三)に掃部助盛頼が幕府からの命令を受けたと称して祥雲寺の権益を侵害し、祥雲寺の住持である珠徹(盛景・盛定弟)が伊勢貞宗に訴えてきたと文明十七年九月三日条の後ろの方にあります。

 

ちなみに珠徹は第6巻118ページに「祥雲寺住持珠徹殿 御到着!」とあり、132ページに「京に行った折には兄盛定が面倒を見てくれての・・・あ、空けられよ 空けられよ」といっている僧侶が珠徹だと思われます。この辺はウィキペディアの「新九郎、奔る!」の項目を参考にしました。

新九郎、奔る! - Wikipedia

 

同年十一月十一日条では伊勢掃部助と祥雲寺の言い分が異なることが指摘され、伊勢掃部助がその奉書案を提出しています。

 

そして十一月二十五日に伊勢新九郎が証人として呼ばれています。新九郎と掃部助の曽祖父因幡入道(伊勢盛久)が祥雲寺を建立し、祖父(伊勢盛綱)の代に荏原郷を兄弟(盛景と盛定)に分割し(この経緯は「新左衛門、励む!」に詳細が描かれている)いると述べ、掃部助も新九郎も祥雲寺には一切関わることができない、それゆえ掃部助の言い分はおかしい、と新九郎は証言しています。いかにも筋を通したがる新九郎らしい言い分ですが、これはあくまでも『蔭涼軒日録』に描かれた若き新九郎の姿です。

そして『新九郎、奔る!』でもそのような人物として新九郎が描かれています。この部分の描写がどのようになるのか、大変楽しみです。

 

盛頼は第4巻28ページに出てきます。「向こうで新九郎を出迎え、荏原の主が誰なのか思い知らせてやりますよ」という台詞を吐いて不敵な表情です。

 

第5巻で叔父の政所珠厳が新九郎を暗殺しようとした計画を利用して盛頼は政所に兵を入れ、珠厳の不正を正しますがそれをきっかけに両者は何となく親しくなっていきます。

 

第6巻13ページでは盛頼が新九郎に説教をしています。

「京にいながらにして命じさえすれば年貢が勝手にやってくるとお主ら親子は思っているのかもしれんがな、大きな心得違いだぞ。ここでは田畑の畦ひとつ、米や麦の一粒から銭の一枚に至るまで、領民の血と汗でできておるのだ」「備前守殿(盛定)もお主もそれが理解っておらん!」

 

この盛頼の説教は新九郎には聞いたようです。新九郎は恥辱と憤怒に満ちた顔をしていますが、彼と彼の子孫である後北条氏の民政を見れば、この時の盛頼の発言は彼の人生に大きな影響を与えるものと思われます。18ページでは「九郎殿(盛頼)の言にも一理ありますから出直します」と笠原美作守や平井安芸守に語っています。そして「あの甘ちゃん小僧が御領主様かよ・・・せいぜい揉まれるんだな」と盛頼は心の中で思っています。

 

その後はいろいろあって盛頼は新九郎の想い女であるつる(備中那須氏の女性で男勝りの桀女)を側室に迎え、『新九郎、奔る!』も新たな舞台に移ります(第6巻〜第7巻)。

 

第8巻の冒頭で伊勢貞親が死亡し、その法要のために伊勢一門が京都に集まることになりましたが、盛頼が「こんなところで遊んでいいのかぁ?上洛せんのかぁ!?」と新九郎に声をかけます。「土産物を拾い集めてくる」「俺の留守中、つるに手を出すなよ。」と言い残して盛頼は上洛しますが、その「土産」が荏原での権限拡大と知り、新九郎も慌てて上洛しようとして大道寺太郎に「いきなり急がすな?」と突っ込まれています。「掃部助殿に遅れを取りたくないのだ」と新九郎は話しており、盛頼へのライバル心は健在です。

 

これが文明五年の出来事として描かれていますので、この時に盛頼は祥雲寺の寺領への介入を許可する奉書を入手した、という設定になるでしょう。

 

8巻の64ページでも京都で偶然出会って新九郎にいろいろとアドバイスをするよき先輩といった風情となっていて、今後もしばらくは活躍が期待できそうな人物です。

 

ちなみに今回大学院時代に購入した『蔭涼軒日録』を久しぶりに本棚から出していろいろと引っ張り回しました。

 

 


新九郎、奔る!(3) (ビッグコミックス)

 


新九郎、奔る!(4) (ビッグコミックス)

 


新九郎、奔る!(5) (ビッグコミックス)

 


新九郎、奔る!(6) (ビッグコミックス)

 


新九郎、奔る!(8) (ビッグコミックス)

 

 

 


新九郎、奔る!(3) (ビッグ コミックス) [ ゆうき まさみ ]

 


新九郎、奔る!(4) (ビッグ コミックス) [ ゆうき まさみ ]

 


新九郎、奔る!(5) (ビッグ コミックス) [ ゆうき まさみ ]

 


新九郎、奔る!(6) (ビッグ コミックス) [ ゆうき まさみ ]

 


新九郎、奔る!(8) (ビッグ コミックス) [ ゆうき まさみ ]