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室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

上杉定正ーゆうきまさみ氏『新九郎、奔る!』を解説する

ゆうきまさみ氏の『新九郎、奔る!』の登場人物で、割と伊勢九郎盛頼(新九郎の従兄)が好きなのですが、もう一人、大変気になっている人物がいます。

 

 

sengokukomonjo.hatenablog.com

それは上杉五郎定正です。

 

初登場は第1巻の167頁ですが、ここでは上杉定正という描写はありません。上杉龍若(後の上杉顕定)が関東管領候補者として越後上杉氏から養子にやってきたのを出迎える関東のお歴々の一人として並んでいます。長尾景春・寺尾礼春・長尾忠景が右のコマに、左のコマには手前から太田資長太田道灌)・上杉定正・太田道真・上杉政真が見えます。

 

はっきり名前が出てくるのは第6巻103ページで、太田資長の陣に顔を出した定正が資長を呼び出し、愚痴りはじめます。

定正「ちょっといいか?孫四郎(長尾景春)の機嫌が悪いようだ」「四郎殿(上杉顕定)はあれか?孫四郎が嫌いなのか?」

資長「関東管領を「四郎殿」などとお呼びなさるな。五郎殿こそ顕定様に対して何か御不満がありそうですな。」

定正「あいつはそもそもあれだ」「若い者を信用してないんじゃないのか?」

資長「「あいつ」とか言わない。」

 

ちなみに両者は連れションをしながら会話しています。ほのぼのとする会話です。資長は40歳、定正は26歳。

 

次に両者の絡みが見られるのは8巻47ページ。

上杉方の事実上の最高司令官であった長尾景信が病死したあとのシーンです。

 

定正「我ら扇谷家とは衝突することもあったが立派な大将だったな。」

資長「うい。人望がありましたな。」

(二人階段を降りながら)

資長「戦はそれがしのほうが上手いのですがな」

定正「お主それあまり人前で言うなよ。」

 

この両者の「その後」を知っている人はこの二つが見事な伏線になっていることに気付かされます。

 

そして同書66ページから両者の関係に大きな変化をもたらす事態が訪れます。

 

武蔵国五十子(いかつこ)陣に攻め寄せる足利成氏軍とそれを防戦する関東管領軍、関東管領軍は長尾景信病死の影響で動揺が治らない中での防戦で苦戦しています。

 

陣頭で指揮を執る資長の元に定正が慌てた様子でやってきます。

 

定正「六佐(資長)!」「政真の姿が見えん。見かけなかったか?」

資長「御当主が?本陣におられぬのか。」

そこに政真の戦死の報せがきます。

定正「あのバカは何をやっているんだ!!」

資長「五郎殿(定正)はここを離れてはなりませぬ!!」

定正「甥が死んだのだぞ!俺が行ってやらねば!」

しかしそれを制して資長は「駆け回るはこの六佐の役目ですぞ」というと戦闘に書き駆け出します。結局資長らの奮戦で古河軍は引き上げます。

その晩、長尾景春上杉定正太田資長が焚き火を囲んで話し合っています。

 

景春「ここだけの話だがな、忠景叔父に親父(景信)の代わりは務まらんよ。」

定正「お主はそれが態度に出るからいかん。それではいつまで経っても家宰職に就かせてもらえんぞ。」

資長「孫四郎殿の心配をしている場合ではござらぬぞ、五郎殿。扇谷家の家督をどうするか、考えねばなりませぬ。」

定正「うちもどこからか養子でも迎えるか」

景春・資長「何を言ってるんだお主っ!!」

定正「え?」

資長「あいや失敬!」

資長「扇谷家には政真様の叔父御が何人も残っておるのですぞ!しかもその中に現状の五十子大西に即応できる方が一人おられる!」

定正「!」「俺か!」

資長「五郎殿、扇谷上杉を背負って立ってもらいますぞ」

 

この二人のその後を知っていれば、これが悲劇の始まりであることは容易に理解できます。

 

庶子の気楽な立場で、資長にも言いたいように言わせていた定正ですが、自らが当主となるとその行為の端々に自分を見下しているかのような資長に我慢ができなくなってしまいそうです。そして資長は別に人を見下したりしているわけではなく、強烈な自負心がそのままナチュラルに出てくるタイプのようです。この仲良さそうな二人は、定正が資長を殺害するという悲劇的な結末を迎えます。そして資長の死が新九郎と伊都の運命を大きく前進させることになります。

 

本ではなく雑誌で最新話をご覧の方はお分かりでしょうが、資長(出家して道灌)と新九郎は丁々発止のやりとりをしますが、最後はいかにも道灌らしい言動で締め括られます。

 

定正は道灌を殺害したために苦戦しますが、定正を助けたのは新九郎でした。また新九郎も足利茶々丸攻撃の際には定正の協力を得ていたようです。

 

少しとぼけた定正の活躍には今後も期待したいと思います。

 

 


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