後円融天皇口宣案(『朽木家古文書』国立公文書館)
古文書の日がやってきました。
引き続き国立公文書館所蔵の『朽木家古文書』からです。
まずは釈文です。
上卿 洞院中納言
永和二年正月廿二日 宣旨
従五位下源氏秀
宜任出羽守
蔵人頭右近衛権中将藤原隆廣奉
内容は単純です。従五位下の源氏秀(朽木氏秀)を出羽守に任命するという天皇の命令を伝えたものです。
読み方がかなりいろいろ癖がありますので、読み仮名を振っておきましょう。
上卿(しょうけい) 洞院中納言
永和二年正月廿二日 宣旨
従五位下源氏秀
宜任出羽守(よろしく出羽守に任ずべし)
蔵人頭右近衛権中将藤原隆廣 奉(うけたまわる)
中世の文書で抑えなければならないのは文書の流れです。
これは天皇の口頭の指示である「仰」は女官のトップの内侍、もしくは直接蔵人に伝わります。蔵人は当日の政務担当の公卿である「上卿」にその「仰」を伝えます。これを「口宣」と言います。上卿は口宣を受けてこれもまた口宣で内容に応じて内記、弁官、外記に送ります。内記局ではそれを受けて位記を出し、弁官は官宣旨など、外記局は宣旨を出します。弁官の出す官宣旨は「左弁官下(くだす)」「右弁官下」という書き出しになるので弁官下文ともいいました。
この辺の説明は詳しくは佐藤進一『古文書学入門』をお読みいただくとよいかと思います。
小島道裕氏の『中世の古文書入門』も読みやすく、わかりやすい本です。
口宣は口頭ですので伝言ゲームになります。それはそれで不都合なことも起こり得ます。当然メモを用意することになります。こういう控えを「案文」といいます。「〇〇案」というように「案」が文書名の後ろにつくのが案文、つまり控えです。
「口宣」の「案文」ですから「口宣案」と言います。
時代が下ると本来は控えだった口宣案を直接交付することになります。これが口宣案です。
この口宣案の流れは、まず後円融天皇が蔵人頭兼近衛中将の鷲尾隆広に「仰」を伝えています。ちなみに蔵人頭と中将を兼任する人を「頭中将」と呼びます。実務能力と儀式での見栄えを兼ね備えた「頭中将」はめっちゃモテたんで、「頭中将」はモテ男の代名詞だったりします。「仰」の内容は「従五位下源氏秀」を「宜しく出羽守に任ずべし」です。それを受けた鷲尾隆広はそれを上卿の洞院公定に伝え、公定が上卿として処理していることを文書の冒頭に書きます。そしてそれを蔵人が氏秀に渡しているのです。
この口宣案の中には室町幕府の将軍の花押が書かれているものもあります。これは室町殿がそれに関与していることを補任者に知らせる意味があります。当時は室町殿からの申し入れはそのまま通りましたから、将軍の関与を公表したい時には口宣案の「袖」、つまり右端の真ん中付近にドカン!と花押を入れるわけです。
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