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室町・戦国時代の歴史・古文書講座

歴史学研究者、古文書講師の秦野裕介がお届けする室町・戦国時代の知識です。

足利尊有御内書

またあやしげな人物が出てきました。足利尊有。足利氏関係のウィキペディアを見ている方は誰だかわかります。大覚寺義昭です。

 

こういう「要出典」と言いたくなる場合は『大日本史料』のデータベースを見てみると色々わかります。義昭が「尊有」と名乗っている史料が出てきます。

 

永享十一年八月二十五日条に「大覚寺義昭、樺山孝文に書を遣り、義教を撃たんことを謀る」として「薩摩文書」が挙げられています。

 

同じものが鹿児島県のサイトの「旧記雑録拾遺 家わけ五」に載っています。

http://www.pref.kagoshima.jp/ab23/reimeikan/siroyu/documents/6756_20230112114935-1.pdf

 

ただ私はこの文書が正しいのかどうかについては疑問を持っています。というよりも私は、この文書は偽文書であると断言していいと思います。1000兆ZWL(ジンバブエドル)をかけてもいいです(3JPY相当)。

 

本文に関心のある方は上のリンクの「傳家龜鏡(六)」の一二三号文書を見ていただくことにして、私の引っ掛かりポイントを示します。

 

いきなり「是偏義教公盗行悪逆無当之政道故也」とあります。

 

こういう書き方、普通はしません。普通は「室町殿」とか「前左大臣」とか「前左相府」とか官途で書くか、諱を書きたければ「義教」と呼び捨てにするでしょう。「義教」という諱に「公」という敬称をつけるケースは管見の限り見たことがありません。

 

次に字数を数えてみますと、一六一字あります。長すぎます。

この文書のタイトルは「大覚寺尊有〈義昭〉御内書案」となっています。そして日付をみると「八月廿五日」とあって、年号は付いていません。

確かに御内書です。しかし御内書というのはこんなに長いものではありません。百二十四号文書に「足利義教御内書」とあります。これはもう御内書オブ御内書です。

 

あと名前です。「尊有」(たかもち)と名乗るでしょうか。足利家の家督の通字は「義」です。だから赤松満祐が奉じた人物は足利義尊と名乗るのです。持氏は嫡子に「義久」を名乗らせるのです。義昭だけなぜ「尊有」なのでしょうか。

 

とまあいろいろ言ってきましたが、確証とまではいいませんが、偽文書の可能性は結構あると思っています。

 

もう少しいろいろ考えてみたいと思います。

 

妙興寺蔵「足利義教像」