オンライン歴史講座の予告:応仁の乱編2
今回は文正の政変です。
これは日野富子さんが京都を焼き尽くした悪女か、という問題とも絡んできます。
日野富子といえば、しばしば京都を灰燼に帰した毒婦というような見方がされます。ちなみに私がある塾にバイトに行った時に、バイト先の同僚が、私が日本史専攻であることを知った時に「日野富子って欲張りだったんですよね」と話しかけてきて答えに一瞬詰まったことがあります。私の回答は「近年の研究ではそういう見方は克服されつつあって(以下意味不明)」というものでした。
日野富子さんが悪し様に言われるのは、やはり義視が後継者と決まっていたのを富子が自分の生んだ義尚を後継者にしたくて山名宗全と組んで細川勝元に対抗した、と言われます。それが応仁の乱の原因だと。
しかし不思議なことがあります。義尚と富子が山名宗全派なのになぜ彼らは細川勝元の庇護下にいるのか、とか、なぜ義視が宗全にのちについて、富子らは東軍になるのか、とか、わけのわからんことがいっぱいあります。
応仁の乱といえば呉座勇一先生の『応仁の乱』が有名になりましたが、私の感想を率直に言いますと「その発想はなかった」です。奈良の大乗院門跡から応仁の乱を見るとものすごくすっきりといろいろわかって納得した、というのが偽らざる感想です。
ただ呉座先生の『応仁の乱』以前から家永遵嗣先生、桜井英治先生、石田晴男先生、早島大祐先生など応仁の乱の周辺についてはかなり語られています。NHK大河ドラマ史上最低の視聴率だった『花の乱』の監修は今谷明先生で、今谷明先生も応仁の乱に関してはしばしば触れていらっしゃいます。近年では呉座先生の他に田端泰子先生が日野富子については書いていらっしゃいます。
室町将軍の御台所: 日野康子・重子・富子 (歴史文化ライブラリー)
ざっとこんな感じですが、これらの研究ではいずれも富子を悪し様には述べていません。
そもそもこの夫妻に三十近くになってまだ子供が生まれないのは、リスクマネージメントとしてもどうかと思われるので、中継ぎを入れる必要はいずれにしてもあったわけです。
そこで日野家は義視を擁立する代わりに義視の妻に富子の妹の良子を入れることにしました。これでどう転んでも富子はそれほど損をしません。もちろん富子の理想のパターンは義視が中継ぎ、義尚成人後は義尚が継承、というものでしょうが、そのためには義視は必要不可欠なパーツです。彼女が義視排斥を狙う、というのはどうにも腑に落ちない。最悪義視の息子が後継になったとしても彼女の失うものはそれほどのものではありません。もっとも義視と義尚の間で戦端が開かれれば別です。実際には合戦当初は義視と富子は共に東軍についていました。この段階では義視と富子は連携していたとすらいえます。
義視が出てきて困っていたのは伊勢貞親です。貞親は義尚の育ての親なので義視が中継ぎになって義尚に確実に帰ってこないと困るわけです。
伊勢貞親のもう一つのポイントは、彼が将軍義政の親政を支える立場だった、ということです。そして義政にとっての最大の敵は将軍権力を掣肘する細川勝元・山名宗全連合です。特に宗全の待遇をめぐって義政と勝元はしばしば対立しています。
宗全排斥の先頭に立っていたのが蔭涼軒主の季瓊真蘂と加賀半国守護の赤松政則です。彼らは伊勢貞親と共に将軍の側近として活動していました。赤松家復興が宗全を牽制する勝元の陰謀という見方に私は与しません。逆に宗全赦免と引き換えに勝元が義政に呑まされた条件である、という方が近いと思います。これは『室町幕府全将軍・管領列伝』に依拠しています。
義敏は貞親と関係が深く、義廉は宗全と接近しています。両者の対立を見て近衛政家は近衛家に伝わる記録類を岩倉に疎開させています。政家の悪い予感は微妙に外れましたが、彼の先見の明が今日まで世界の記憶に指定された『御堂関白記』をはじめとする数々の宝物を残すこととなったのです。
貞親は義視を陥れようとしますが、義視の反撃を食らってあっという間に失脚します。この辺は読みやすいのはゆうきまさみ氏の『新九郎奔る』第一巻です。これは文正の政変で第一巻が終わります。文正の政変マニアにとっては欠かせない一冊です。
要するに宗全は富子とは結んでいません。
ではなぜ宗全と富子が結び付けられてしまったのでしょうか。私はそれを誤って結びつけてしまった人物がいると考えています。その人物の誤りが現在まで引き継がれていると思います。
この誤りをしっかり補正しないから
「富子は義尚を無理に押してはいない」
「富子は宗全と組んで義視と対立していた」
「義視が宗全に寝返ると富子は勝元に寝返った」
という意味不明な動きを富子はするようになるのです。
ではその間違いとはなんだったのでしょうか。それは明後日のオンライン歴史講座をお楽しみに。
では
ticket.asanojinnya.comでお会いしましょう。