拙著『乱世の天皇』見どころ11ー海域アジアへの目配り
これはまあ、ゆるく自慢が入ってますが、拙著『乱世の天皇』の見どころの一つは第八章「後花園天皇の時代の海域アジア」です。後花園天皇の本で海域アジアとの関係を述べた書物は初めてでしょう。というか、後花園天皇の評伝が初めてでした。
というネタはさておき、2020年に入って一斉に出てきた室町天皇本の中で拙著の特徴はこの第八章です。類書では海域アジアに関する記述は群を抜いていると思います。
これは結局どこに目配りをするか、という問題で、そこそこ限られた紙幅の中でどれを取り上げ、どれを省くか、というのは筆者の問題関心によります。
私はもともと対外関係史を修士論文で取り上げたことや、しばらく北海道史にも関心を寄せていたこともあって、やはり海域アジア視点の章を入れたかったわけです。
あくまでも後花園天皇を中心に室町時代の天皇を取り上げるわけですから、同時代の王権と比べないと意味がありません。
第八章では後花園天皇と同年代の二人の国王を取り上げています。朝鮮王朝の世祖と琉球王国の尚泰久王です。
この辺はかつてエントリを立てています。
ざっくりといえば、彼ら三人は傍系の王族から王位に上り詰めた、という点です。ただ三人ともそれぞれ事情が違います。後花園天皇は天皇になるべき人がいなくなって、傍系から十歳の少年を天皇に迎えました。
朝鮮王朝では甥の国王を殺害して自ら王位に登っています。その背景に少年の国王(この場合足利義勝)が在位していたことによる混乱があったのではないか、ということを指摘しています。
ちなみにものすごくどうでもいいことですが、韓流ドラマ(私はドラマ自体みないので韓流ドラマもみていませんが)の「王女の男」に世祖が出てきます。
この中で一番左にいるのが世祖で、右端の老人が世祖と対立して殺害された金宗瑞です。この話は世祖の娘と金宗瑞の息子の、敵対する家同士の恋愛物語で、いわば「ロミオとジュリエット」のような話です。知らんけど。
拙著では世祖と金宗瑞は出てきます。ちなみに拙著で出てくる申淑舟も「王女の男」に世祖の側近として出てきます。
琉球の場合はいずれも在位期間が短く、それゆえしばしば王の死に不自然な点を見出す見解もあるようですが、年齢だけを見れば琉球国王が特に短命ではないことを指摘し、琉球国王の直面したであろう困難な事情について述べています。
さらには琉球国王と日本国王(室町将軍)との関係についても述べています。
日明関係についても、土木の変による海域アジアの動揺について述べています。
もちろん後花園天皇が北東北・北海道の歴史に登場してくる背景についても考察しています。
天皇の問題についても海域アジアの視点から見る、ということは意味があると思います。その点拙著で述べておりますので、よろしくご味読くださいませ。
北朝の天皇-「室町幕府に翻弄された皇統」の実像 (中公新書)