新九郎の従兄弟の伊勢盛種の苦労ーゆうきまさみ氏『新九郎、奔る!』を解説する
これは以前のエントリを『新九郎、奔る!』仕様にリライトしたものです。
『新九郎、奔る!』の第3巻の終わりに「外伝 新左衛門、励む!」という話が載せられています。新九郎の父の伊勢盛定の若き日々の話です。伊勢貞国に気に入られ、貞国の娘の須磨と結婚して政所の中枢にのし上がっていった伊勢新左衛門盛定が尾張国の国人領主の娘の浅茅と出会い、深い仲になるまでを描いています。本作では新九郎と弥二郎が浅茅の子となっています。この浅茅はのちに伊勢貞藤と再婚します。そしてこの横井氏は北条時行の子孫とされており、のちに新九郎の子孫が北条氏を自称する際に大きな意味を持ってきます。
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内容は以下の通りです。
伊勢肥前守盛種が知行していた当国松山保(新潟県十日町市)の事、 伊勢盛種の直務の土地であるところ、代官と号して(越後守護の)被官人の長尾三河入道が乗り込んできたとのこと、驚いている。そこで盛種を下国させた。きっちりと処分を行い、元のように戻せばよろしい。詳細は右京大夫(細川政元)から話があるであろう。
伊勢盛種の知行分に越後守護代の一族長尾三河入道(輔景)が介入してきたことに対し、盛種を下向させたので、長尾による権利侵害を停止するように長尾の主君の上杉民部大輔(房能)に命じた文です。
松山保は伊勢盛種の直務(代官などを通さず直接支配する土地)であったところ、「代官と号し」、というところ、少し解説を加えますと、遠国ですから伊勢盛種は越後国にいるわけではありません。しかし幕府の申次衆であった盛種の所領ですから、当然上杉氏や長尾氏の影響を排して所領支配をしていたのです。つまり「直務」ということです。しかし長尾輔景が「代官」と「号す」つまり無理やり主張してきて権利を侵害したわけで、これは一説には上杉氏による新九郎(伊勢宗瑞)への牽制とも言われています。それを排除しようとしたのがこの書状です。
新九郎は足利義澄や細川政元の命令を受けて東国に降って堀越公方を滅ぼしていますので、そういう可能性は大いにあると思います。
文中に出てくる伊勢盛種は新九郎こと伊勢宗瑞の従兄弟に当たります。盛種の父の伊勢盛富については『新九郎、奔る!』第3巻の143・144ページに、『新九郎、奔る!』の17・18ページに登場してきます。
新九郎、奔る!(8) (ビッグ コミックス) [ ゆうき まさみ ]
新九郎、奔る!(3) (ビッグ コミックス) [ ゆうき まさみ ]
参考